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東京地方裁判所 昭和38年(特わ)579号 判決

本店所在地

東京都台東区浅草三筋町二丁目三番地

株式会社 滝川商店

(右代表者代表取締役 滝川)

本籍

同都同区谷中三崎町二八番地

住居

同都同区浅草三筋町二丁目一一番地

会社役員

滝川

明治四二年二月二五日生

右被告会社株式会社滝川商店に対する法人税法違反、被告人滝川に対する法人税法違反・所得税法違反各被告事件について当裁判所は検察官野村幸雄出席のうえ審理し、つぎのとおり判決する。

主文

1、被告会社を判示第一の(一)の罪につき罰金三五〇万円に、同(二)の罪につき罰金三〇〇万円にそれぞれ処する。

2、被告人滝川を懲役八月および判示第二の(一)の罪につき罰金八〇万円に、同(二)の罪につき罰金一〇〇万円にそれぞれ処する。

3、被告人滝川において同人に対する右各罰金を完納することができないときは金五、〇〇〇円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置する。

4、ただし被告人に対し本裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

5、訴訟費用は被告会社および被告人の連帯負担とする。

理由

(罪となる事実)

被告会社は東京都台東区浅草三筋町二丁目三番地に本店を置き、理容器具、美容器具ならびに化粧品の販売等を目的とする資本金三〇〇万円の株式会社であり、被告人滝川は被告会社の代表取締役としてその業務全般を統括するかたわら、個人として手形割引の方法による貸金を業としていたものであるが、

第一、被告人滝川は被告会社の業務に関し法人税を免れようと企て、架空仕入を計上する等の不正な方法により所得を秘匿したうえ、

(一)、昭和三四年七月一日より同三五年六月三〇日までの事業年度において、被告会社の実際所得金額が五、七六一万七七〇円(ただし当裁判所の認定所得金額は五、六四八万一、五〇九円である。)であつたのにかかわらず、同事業年度の法人税申告期限の最終日である同三五年八月三一日、東京都台東区浅草蔵前町三丁目二四番地所在の所轄浅草税務署において、同税務署長に対し、所得金額が一、五〇八万一、二二一円であり、これに対する法人税額は五一六万一、〇九〇円(ただし法人税法第一七条の二による留保金額に対する課税額を除く)である旨の虚偽の確定申告書を提出し、もつて同会社の右事業年度の前記認定所得金額に対する法人税額二、〇八九万三、二〇〇円と右申告税額との差額一、五七三万二、一一〇円を不正に免れ、

(二)、昭和三五年七月一日より同三六年六月三〇日までの事業年度において、被告会社の実際所得金額が五、六五六万四、三四一円(ただし前同様認定所得金額は五、六三一万七、〇六九円である。)であつたのにかかわらず、同事業年度の法人税申告期限の最終日である同三六年八月三一日、前記浅草税務署において、同税務署長に対し、所得金額が二、四四五万六九九円であり、これに対する法人税額は八五五万六、九二〇円(前同様、留保金額に対する課税額を除く)である旨の虚偽の確定申告書を提出し、もつて同会社の右事業年度の前記認定所得金額に対する法人税額二、〇六六万六、一六〇円と右申告税額との差額一、二一〇万九、二四〇円を不正に免れ、

第二、被告人は、自己の所得税を免れようと企て、架空名義の普通預金口座等多数を利用して行つていた手形割引による割引料収入、家賃収入を脱漏する等の不正な方法により所得を秘匿したうえ、

(一)、昭和三五年分の実際所得金額が八二三万八、六八三円であつたのにかかわらず、同三六年三月一四日前記所轄浅草税務署において、同税務署長に対し、所得金額が八八万三、三〇〇円でありこれに対する申告納税額は三万七、五〇〇円である旨の虚偽の確定申告書を提出すると共に最終申告期限を徒過し、もつて正規の申告納税額三〇三万三、二八〇円と、右申告納税額との差額二九九万五、七八〇円を不正に免れ、

(二)、昭和三六年分の実際所得金額が一、二一二万七、三〇九円であつたのにかかわらず、同年分の所得税申告期限の最終日である同三七年三月一五日前記所轄浅草税務署において、同税務署長に対し、所得金額が二八六万三、一〇〇円でありこれに対する申告納税額は六万二一〇円である旨の虚偽の確定申告書を提出し、もつて正規の申告納税額四三六万七、六二〇円と右申告納税額との差額四三〇万七、四一〇円を不正に免れ

たものである。

(右文中、「実際所得金額」とは、税法上客観的に算出された所得金額をいい、「当裁判所の認定所得金額」とは右実際所得金額中申告所得金額と詐偽その他不正の行為により秘匿脱漏した所得金額との合算部分の金額をいう。

なお、右各逋脱所得の計算は別紙第一、第二および第五の修正損益計算書のとおりであり、税額の計算は別紙第八の税額計算書のとおりである。)

(証拠の標目)

右の事実は、

一、判示冒頭ならびに同全般の事実につき

1、被告会社代表者兼被告人(以下単に被告人という)の当公判廷における供述

2、被告人の検察官に対する昭和三八年八月一日付、同年同月二日付および同年同月一六日付各供述調書

3、第三、四回公判調書中証人手島干の各供述記載

4、滝川清子、荻原清二の検察官に対する各供述調書

5、登記官吏松本成一作成の会社登記簿謄本

6、被告会社の定款写し

7、大蔵事務官作成の検査てん末書四通

8、収税官吏小林伊之助作成の銀行調査記録二通

二、判示第一の事実につき

1、被告人の検察官に対する昭和三八年八月一七日付供述調書(ただし検察官請求証拠目録乙中、請求番号四のもの)(別紙第三の逋脱所得の内容明細の勘定科目番号21、同第四の22以下同単に三の21、四の22の用法に従う。)

2、被告人提出の「前受受取貸付利息について」と題する上申書(三の34、四の33)および嘆願書(三の2、31、四の1、2)

3、第四回公判調書中証人江津正武の供述記載(三の5、四の5)

4、第五回公判調書中証人加藤兼次郎、同及川留吉、同近藤勉の各供述記載(三の31)

5、検察官調書七通(氏名は供述者)

イ、鈴木利和、昭和三八年七月二九日付(三の2、四の2)、同年八月一三日付(三の1、2、四の1)、同年同月一四日付(四の1)

ロ、手島干、昭和三八年七月三〇日付、第一項(四の1、2)

同年八月一日付(三の31、四の1、2)

ハ、滝川透(三の33、四の29、30)

ニ、野本生枝(四の1、2)

6、大蔵事務官作成の質問てん末書五通

(氏名は被質問者)

イ、手島干(四の1、2)

ロ、飯田三武男(三の31)

ハ、山尾庄三(三の34)

ニ、荻原清二(四の1、2)

ホ、被告人滝川、昭和三七年七月十四日付(三の21、四の22)

7、上申書四通(氏名は提出者)

イ、手島干(四の1)

ロ、安達恭二(三の21、四の22)

ハ、浅井賢道(四の22)

ニ、山尾庄三昭和三七年三月七日付のもの(三の34)

8、回答書三通(氏名は作成者)

イ、第一銀行下谷支店長藤森鉄雄(三の5、四の5)

ロ、赤木進(三の21、四の22)

ハ、大阪エアゾール工業株式会社(三の35)

9、大蔵事務官渡辺悦郎作成の明細書三通

イ、架空仕入分支払手形入金先明細書(三の2、四の2)

ロ、認定賞与(交際費否認分)明細書(三の21、四の22)

ハ、フケ妙堂分受取利息計上洩分明細書(三の34)

10、登記官吏金子博、同鯉淵典士、同服部圭逸各作成の登記簿謄本三通(三の31)

11、押収にかかる証拠物

イ、架空仕入請求書五枚(昭和三九年押第八八三号の一)(三の2)

ロ、架空仕入請求複写簿三冊(同押号の二)(三の2、四の2)

ハ、架空仕入領収証綴三冊(同押号の三)(三の2、四の2)

ニ、ゴム印および印鑑計一〇個(同押号の四)(三の2、四の2)

ホ、仕入補助簿(自昭和三四年七月至同三六年六月)一〇冊(同押号の五)(三の1、2、31、四の1、2)

ヘ、売上帳(自昭和三五年七月至同三六年六月)七冊(同押号の六)(四の1、2)

ト、総勘定元帳四冊(同押号の七)(三の34、四の1、2、30)

チ、経費明細帳四冊(同押号の八)(三の21、四の22)

リ、不渡手形等記入帳二冊(同押号の九)(三の31)

ヌ、振替伝票綴二綴(昭和三八年同押号の一〇)(三の35、四の22)

ル、売上一覧表一袋(前同押号の一一)(四の1、2)

ヲ、野本机中書類一袋(同押号の一二)(四の1、2)

ワ、給与支払内訳明細書一綴(同押号の一三)(三の5、四の5)

カ、仕入一覧表一袋(同押号の一四)(四の1、2)

ヨ、給与支払明細書(昭和三三年および同三四年度分)二綴(同押号の一五)(三の5)

タ、法人税決定決議書綴一綴(同押号の一六)

レ、源泉徴収簿一綴(同押号の一八)(四の5)

ソ、確定申告書控(昭和三六年六月期分)一綴(同押号の一九)

ツ、確定申告書付属明細書二綴(同押号の二〇)

ネ、売上帳(昭和三四年六月期分)一冊(同押号の二一)(三の5、四の5)

ナ、売上帳(昭和三四年六月期分)一冊(同押号の二二)(三の35)

ラ、売上帳(昭和三五年六月期分)一冊(同押号の二三)(三の33)

ム、売上帳(昭和三四年六月期分)一冊(同押号の二四)(三の31)

ウ、売上帳(昭和三五年六月期分)一冊(同押号の二五)(三の31)

ヰ、売上帳(昭和三四年六月期分)一冊(同押号の二六)(三の33、四の30)

ノ、売上帳(昭和三五年六月期分)一冊(同押号の二七)(三の33、四の30)

オ、売上帳(昭和三六年六月期分)一冊(同押号の二八)(三の33、四の30)

ク、貸付金帳(昭和三三年六月期分)一冊(同押号の三一)(三の31)

ヤ、不渡手形等帳(昭和三四年六月期分)一冊(同押号の三二)(三の31)

マ、手形仮払金等帳(昭和三六年六月期分)一冊(同押号の三三)(三の31)

ケ、貸付金帳(昭和三六年六月期分)一冊(同押号の三四)(三の31)

フ、滝川商店法人税決定決議書綴一綴(同押号の三五)(三の31)

三、判示第二の各事実につき

1、被告人の検察官に対する昭和三八年八月一七日付(ただし、検察官請求証拠目録乙中請求番号五のもの)および同年同月二四日付各供述調書

2、被告人提出の昭和三七年九月一四日付および同年一一月一五日付各上申書(前者につき六の1、七の1、後者につき六の5、七の6)

3、手島干の検察官に対する昭和三八年八月二一日付供述調書

4、大蔵事務官作成の質問てん末書五通

(氏名は被質問者)

イ、綛山光徳(六の1、七の1)

ロ、小林ちよ(六の1、七の1)

ハ、近藤勉、昭和三七年九月一一日付(六の5、七の6)

ニ、荻原清二、同年八月一一日付(六の1、4、七の1、5)

ホ、丹羽正作(七の4)

5、大蔵事務官佃和男作成の調査書類(検察官請求証拠目録(甲一)中請求番号三六号のものを除く)二三通(六の1、2、七の1、2)

6、上申書二七通(氏名は作成者)

綛山光徳二通(六の1、七の1)、大橋美代治(同前)、小林幸一四通(同前)、須藤次郎二通(六の1、2、七の1、2)、杉本好雄二通(六の1、七の1)、田原正弥(同前)、小山武雄二通(六の1、2、七の1、2)、樋口裕(六の1、七の1)、益岡進(前同)、速水製作所(前同)、山本豊二通(前同)、中村峯次三通(前同)、靏谷義行二通(前同)、加藤吉之助(七の1)、加藤正(前同)、アルト産業株式会社(前同)

7、回答書四通

山岸敦麿、日本証券代行(株)登録部管理課第一係、第一信託銀行(株)総務部文書課(以上いずれも六の4、七の5)、松尾博行(六の5、七の6)

8、大蔵事務官渡辺悦郎作成の昭和三四年首受取手形前受割引料調査表(六の1、2、七の1、2)

9、大蔵事務官佃和男作成の雑口割引手形等集計表(六の1、七の1)

10、大蔵事務官渡辺悦郎作成の支払手数料集計表(六の1、七の1)

11、大蔵事務官大塚靖夫外一名作成の現金有価証券等現在高検査てん末書(六の4、七の5)

12、右同人作成の有価証券ならびに配当収入調査記録(前同)

13、右同人作成の阿部野橋不動産所得調査記録(六の5、七の6)

14、大蔵事務官渡辺悦郎作成の貸倒金調査記録(七の4)

15、押収にかかる滝川所得税確定申告書綴一綴(同押号の一七)

16、以上の証拠のほかに、前掲各証拠のうち証拠の標目の番号二の1、同3、同7のロ、ハ、同8のイ、ロ、同9のロ、同11のヨ、レ、ネ(いずれも六の6、七の7)

を各綜合して、これを認める。

(訴訟関係人の主張に対する判断)

第一、弁護人は

一、別紙第三の番号5、同第四の番号5の各架空給料否認三五万円および三四万七、六五五円につき、右は被告会社の従業員江津正武に対する給料および賞与であるから、経費として当然損金計上が是認せらるべきである。被告会社がこれを直接江津に支払わず、被告人滝川に支払つていたのは、江津の被告人滝川に対する債務を、江津の同意を得て、被告会社において第三債務者として江津に代り被告人に毎月割賦弁済をしていたからであると主張するのであるが、被告人滝川の検察官に対する昭和三八年八月一六日附供述調書、第四回公判調書中証人江津正武の供述記載、第一銀行下谷支店長作成の回答書によれば、江津は昭和三三年三月頃からは被告会社から独立し、被告会社の外に立つて、被告会社から商品を仕入れ、これを他に販売する営業に従事し、被告会社にはその仕入代金を支払つていたものであること明らかであり、被告会社に雇われ被告会社の業務に従事していた事実は到底認められない。それゆえ、本件金額は江津正武の名義を利用した架空給料であり、実体は被告人滝川に対する同額の益金処分の賞与と認めるのが相当であり、また被告人らは右の事実を認識しながら敢えて架空給料を計上したものであるから逋脱の犯意を認めるに十分であり所論は採用できない。

二、別紙第三の番号21交際費中否認一三万三、一八五円、同第四の番号22交際費中否認七万七、〇六一円につき、右は上野松坂屋にある滝川晃一(被告人滝川の通称)なる個人名義の掛買口座の支払代金であり、また上野松坂屋には別に被告会社名義の掛買口座のあることは認めるが、被告会社においてはこの二個の口座を併用していたものであり、個人名義の掛買口座による買物も全部被告会社のために購入した品物のみであつて、これら会社用品のすべてが必ずしも交際費として計上するに適するものばかりではなく、一部は会社備品費として、一部は従業員の福利厚生費として計上すべきものが含まれているかもしれないが、かかる誤りは滝川清子と手島干との間の連絡が十分でなかつたことによつて生じた経理処理上の誤りに過ぎず、いずれにせよこれら代金の支払は被告会社の経費として認容せらるべきものであり、検察官の主張するように、被告人滝川の家族の買物の代金を、同人のために被告会社において交際費名義で支払つたものではないというのであるが、元来個人営業時代に利用していた個人名義の掛買口座のほかに、会社設立後特に会社名義の口座を設けた趣旨は一方を個人用に、他方を会社用に利用し、彼此混同することのないように、取引を区別するためであるとみるのが条理上当然であるのみならず、被告人らは単に交際費として支出したものであると主張するに止り、如何なる品物を如何なる得意先仕入先に如何なる目的をもつて贈つたものであるかその費途が明らかでないから法人税法上の交際費として損金に算入することのできないことは勿論であり、且つ被告人滝川の大蔵事務官に対する昭和三七年七月一四日附質問てん末書中同人の供述として「昔は個人で使用する物品を買うための個人口座と会社の使用する物品の買い入れのための口座と松坂屋には二つの口座があり個人分は個人で支払うようにしていたが、最近は個人口座分も会社で支払つているようです。私は知つていましたが、個人口座で買い入れる分のなかにも社用が入つていたりするので黙認していました。これは当然個人で支払うべきものであると思つています」旨の記載、同人の検察官に対する昭和三八年八月一七日附供述調書中同人の供述として「上野松坂屋には息子の名前を用いた滝川晃一名義の口座と会社名義の口座とがあり、松坂屋での買物にはこの口座を使つています。最初は個人名義の口座と会社名義の口座とは区別して私達家族のものを買う場合には個人名義の口座を使い、支払いも別個にしていましたが、そのうち個人口座で買入れた品物のなかにも会社のために使う品物が入つたりするようになつたので、この個人名義の口座分の代金も会社で支払うようになりました。しかし、個人口座の分は、何といつても私達家族などのものを買う場合が多く、社用のものを買う場合は僅かしかないのですから、この分は当然個人で払うべきであると思つています。その中に社用の買物があつたとすれば、その分の代金だけ会社から貰えばよい訳ですが、現在となつてはどの分が社用の買物であるかわかりません」旨の記載、安達恭二ならびに浅井賢道作成の各上申書、赤木進作成の回答書各記載の購入品目を綜合すれば、滝川晃一名義の掛買口座により購入した品物は被告人滝川の家族の個人的用途に供したものと認めるのが相当であり、また弁護人は右個人名義口座による買物の中には被告会社の従業員に対する福利厚生の用に供するための品物、会社備品として処理されるべきものが含まれていると主張し、特に品名を挙示するところはないのであるが、証人滝川清子の当公判廷における供述によれば、その例として炊事用品、食器、レコード等をいうものの如くであるところ前記上申書によれば、これらの品物は個人名義の口座のほか被告会社の口座にも記載されており、これによれば従業員に対する福利厚生の品物、被告会社の備品等の類は被告会社名義の口座を使用して購入されたとみるのが相当であり、会社備品、従業員のための買物代金は本件個人名義口座には、含まれていないものと認むべきである。したがつて、本件個人名義の口座による支払いは被告人滝川の家族の買物代金を同人のため被告会社において交際費に仮装して支払つたものであり、その実体は被告会社の利益処分としての被告人滝川に対する裏賞与であると認める。それゆえ所論は採用できない。

三、別紙第四の番号22交際費中否認一〇万円につき、検察官は右は被告会社の取引先速水製作所から買い受けた土地建物について支出したものであるから取得価格の中に含めるべきものであり、交際費とは認められないと主張するけれども、被告会社は同製作所からの土地建物の買い受けについて売買契約、代金支払、所有権移転登記のすべてが完了後、同製作所経営者の母親が安値で買い取られたと愚痴をいつているという噂を耳にしたので被告人滝川は同女への小遣として同製作所の経営者に額面一〇万円の小切手を交付したものであり、すでに代金の支払も所有権移転登記も完了した後、単に老人に対する情誼から支出した一〇万円が取得価額に含まれる道理はなく、これを交際費として計上した被告会社の行為は正当であり、なお仮りに交際費に計上したのが不適当であるとしても、被告人は交際費であると考えて支出したのであるから非損金性に対する認識を欠いていたものであると主張する。そこで按ずるに被告人滝川の当公判廷における供述、第三回公判調書中手島干の供述記載、押収に係る振替伝票(前同押号の一〇)を綜合すると、被告会社は取引先の速水製作所から土地、建物を買い受けたが、その際代金を値切つたため、被告人滝川は売主の母親からこの取引について苦情のでることを案じ、予めこれを封じるため代金支払ならびに所有権移転登記終了後、買受代金とは別に同女に対する小遣という名目で金額一〇万円の小切手を交付した事実が認められるのであつて、検察官は右の一〇万円は右建物の取得価額に含ませるべきであると主張するのであるが、前記認定の如き小切手交付の趣旨並びに時期からみて、その主張は採用し難く、また、租税特別措置法にいう交際費とは法人がその得意先、仕入先その他事業に関係ある者等に対する接待、きよう応、慰安、贈答その他これに類する行為のために支出するものをいうのであるが、金銭、小切手で贈与したものはその性質上原則として交際費とは認め難いところ、本件小切手の交付の趣旨、時期等からみて、本件支出は被告会社の事業に関係ある者に対する事業遂行上の必要的支出とは認められないから、弁護人の主張するように交際費とも認め難く、その趣旨並びにそれが小切手であること等からみて前記売主の母親に対する贈与すなわち寄附金と認定するのが相当である。しかし別紙第四の番号30掲記のとおり被告会社においてはすでに寄附金の損金算入限度額超過分があるのでこれが損金算入を認容することはできない。なお被告人が本件支出は税法上交際費として損金計上が是認されると考えていたとしても、右は単なる法律の錯誤によるものであり、かつそのように誤信したことについて無理からぬ事情の何等認め難い以上、右のような錯誤は犯意の成立を阻却するものではないから所論は採用しない。

四、(一) 別紙第三の番号31貸倒損失否認中加藤製作所に対する貸付金二二五万円につき、同製作所経営者加藤兼次郎には弁済能力全くなく、被告会社は同人から貸付金二二五万円に対する月六厘程度の利息一万五、〇〇〇円を毎月受領しているけれども、これとて被告会社としては不要の商品を無理に買い入れ、利息相当額以上に高価な代金を支払つているのが実情であり、実質的には利息を受け取つていることにはなつていないのである。また同人との取引きを継続していることも事実であるが、被告人は長年馴染みの同人を見捨てるにしのびず、従業員の不満を押え利益を度外視してやつていることであり、また、右二二五万円の債権のうち一〇〇万円については同人所有の建物に抵当権を設定しその登記もなされているが、右は単なる形式であり、被告会社は同人に対し右抵当権は絶対に実行しない旨の特約があり、しかのみならず、右建物の敷地は借地であるに拘わらず、地上建物に抵当権を設定するについて、地主の同意を得ていないし、また得られる見込みもないから、仮令抵当権を実行しても、競落人は借地権を取得できない関係にあり、すなわち加藤に対する本件貸付金に対しては、名目のみで実体のない抵当権が設定されているに過ぎず、且つ任意弁済を受ける見込みは全くないのであるから真実貸倒れ債権である。仮りに税法上貸倒れと認められないとしても、被告会社としては非損金性の不知すなわち事実の錯誤により税法上も当然貸倒れとして認定されるものと考えて損金に計上したのであるから逋脱の故意を欠き、逋脱犯は成立しないと主張するのであるが、第五回公判調書中証人加藤兼次郎の供述記載、登記官吏金子博作成の登記簿謄本、押収に係る仕入補助簿(前同押号の五)に検察官に対する手島干の昭和三八年八月一日附供述調書を綜合すれば、加藤製作所は革砥の製造販売業を営み被告会社とは古くから取引関係があり、現在もなお取引きを継続しており、右貸付金に対しては被告会社から仕入代金が支払われる都度一カ月一万五、〇〇〇円の利息を支払つていること、右貸付金のうち一〇〇万円については同人所有の家屋に被告人名義で抵当権が設定されており右抵当権は実質的には被告会社の債権を担保するものであることが認められ且つ右家屋は借地上の物件ではあるが昭和三五年六月期の決算当時において、少くとも右貸付金額を下らない取引価格を有していたこと等の事実が認められるのであつて、客観的にみて到底貸倒れとは認められず、且つ被告人は右の事実を認識していたにも拘らず、古くからの取引先で債務者の気心もわかつているので抵当権を実行してまで取り立てるという気持ちになれず、単に債権の回収がはかばかしくないという一事をもつて、被告会社の経理担当者手島に命じて貸倒れとして処理させ、損金に計上させたこと明らかであり、逋脱の犯意は十分認められるから所論は採用できない。

(二) 別紙第三の番号31貸倒損失否認中被告会社の株式会社及川商店に対する貸付金一二〇万円は事実貸倒れである。及川留吉の個人資産による担保は被告人個人の同人に対する債権四二六万六、〇〇〇円に対するものであり、被告会社の貸付金は無担保であり、且つ株式会社及川商店は事業不振のため休業状態にあり同商店に対する債権は事実上貸倒れであるから税法上も是認されると信じて損金に計上したのであつて、逋脱の犯意は存しない。また仮りに証人及川留吉の当公判廷における供述の如く右一二〇万円の手形は原因関係なくして振り出されたものであつて、被告会社は同人に対し債権を有しなかつたとすると、被告会社の台帳資産の部には架空の資産が計上してあつたことになり、これを貸倒れとして償却したとしても、元来存在しない資産なのであるから所得を脱漏したことにはならないから同商店に対する一二〇万円の債権償却については、主観的のみならず、客観的にも脱税犯の成立要件を欠くものであると主張するけれども、被告人滝川の当公判廷における供述、第五回公判調書中証人及川留吉の供述記載によれば、本件一二〇万円の手形貸付金は実体のない架空の債権であると認めるに十分であり、架空の手形貸付金に貸倒れということはあり得ず、かくの如きは損金を増加し、所得を減少させる結果を招来するものであること明らかであり、被告人は右の事実を認識しながらこれを貸倒れに計上したものであるから逋脱の犯意を認めるに十分であり所論は到底採用できない。

(三) 別紙第三の番号31貸倒損失否認中畑中美容に対する受取手形六六万二、九〇〇円および手形仮払金二二七万二、三〇〇円につき、畑中美容は昭和三三年六月五日和議開始となり、その和議条件は債権総額三九四万三、一六〇円を三年間棚上げし、毎月三万円宛三年間積み立てた一〇八万円をもつて三年後に平等弁済するというにあることは、弁護人提出の和議議事録および債権者一覧表によつて明らかである。そしてこの業界の通例として、和議開始となつた取引先が再起することはないと判断するのが常識であり、また和議条件そのものをみても、三年後に弁済を受ける金額は、債権額に比しあまりに僅少であるから、本件債権は和議開始と同時に事実上貸倒れとなつたのである。しかし、被告会社は二年間待つた末、内山経理事務所にはかり、且つ、浅草税務署員の意見をきいたうえで、将来内入弁済があつたときは、雑収入として計上するつもりで当期において本件債権を償却したものである。したがつて、被告人らは当時三年間経過後でなければ、これが税法上貸倒れと認められないということはつゆ知らずこの部分についても非損金性の不知による事実の錯誤があり、逋脱の故意を欠くものであるというのであるが、有限会社畑中商会の和議々事録によれば、畑中美容では昭和三三年六月五日和議手続が開始され、債権者委員会において畑中美容に対する総債権は三年間棚上げにし、この間利益を積み立て、これを各債権者に分配する旨の協議が成立した事実が認められるが、一方被告会社の売上帳(前同押号の二四、二五)によれば、被告会社では畑中美容と昭和三四年六月期において現金取引を行つていたが、同三五年六月期には信用取引にかわり期末における売掛金残高は三四万円余りに達しており、また手形仮払金等帳(前同押号の三三)によれば毎月若干の入金のあることも窺われるのであつて、すなわち被告会社においては和議手続開始後も継続して取引が行われその代金の支払を受けており、手形仮払金についてもすこしづつ回収している事実が認められるのであるから客観的にみて債権の回収不能の状態にあつたものといえないし、被告人もまたその事実は十分諒知していながら、これを貸倒れとして損金に計上させていたのであるから到底逋脱の犯意なしということはできない。それゆえ、所論は採用しない。

(四) 別紙第三の番号31貸倒損失否認中山手商会に対する受取手形三三四万円、貸付金一〇〇万円について、山手商会に対しては、被告会社の債権のほかに被告人個人の債権約五〇〇万円があり、はじめはこれが担保として検察官主張の建物に順位二番の抵当権を設定していたが、その後被告人は個人として一番抵当の被担保債権三〇〇万円を代払いしてやつたので被告人は山手広蔵に対し合計八〇〇万円の債権を有するに至つた。そこでこれを担保するため、昭和三三年一〇月四日抵当建物の所有権を被告人に移転したのであるが、その際山手は被告人に対し右建物の敷地の所有者から必ず所有権移転の承諾を得ることを確約したのに拘らず今日に至るまでこれを履行しないのみならず、毎月利息と称して被告会社に対しては額面三万円被告人に対しては額面五万三、〇〇〇円の約束手形を振り出すのであるが、これらの手形金は一回も支払わず、また前記建物の所有名義は一応被告人に移しておくがなるべく早く他に売却して債務を弁済すると明言しながら、被告人に無断で建物を区分して賃貸してしまつた。そして二、三年後には、わずか一坪位の部分を山手が占有することを表示する表札を掲げたまま居所をくらましてしまつた。現在大阪の南利三弁護士が被告人の委任を受けてこの建物に関する問題処理にあたつているか右南弁護士の説明によれば、訴訟には多くの経費と年月を要するし、結果的にも地主の承諾は得られず、且つ多数の占有者のあるこの建物によつて、債権を回収できる見込みは殆んどないということであつた。右のとおり検察官主張の担保権は被告人個人の債権に対するものであり、それさえ事実上の貸倒れであるから、無担保の被告会社の債権は勿論貸倒れであつてこの部分については逋脱犯は成立しないと主張するので、まず、被告人個人の山手商会に対する債権の存否について検討するに、被告人は当公判廷において個人として多額の貸付金がある旨供述し、また服部圭逸作成の建物登記簿謄本の記載によれば、右商会の経営者山手広蔵所有の建物に対し昭和三二年三月二五日被告人個人名義の被担保債権を一五〇万円とする抵当権の設定が登記され次いで同三三年一〇月一四日被告人名義に所有権移転登記がなされておるのであるが、押収に係る法人税決定決議書綴(前同押号の三五)中の有限会社山手商会代表者山手広蔵作成に係る昭和三四年三月二四日附答申書によれば、山手広蔵は昭和三〇年八月頃から個人で営業を開始したが、資金難に陥り、右営業は同三二年三月頃設立された有限会社山手商会に引き継がれたが、その際山手個人の債務もこれに引き継がれ、その中には被告人に対する債務約一〇〇万円も含まれており、右答申書提出当時には買掛金は約二五〇万円に上つているが、それ以外の債務は一切存しない旨の記載がある。してみると、被告人の山手商会に対する債権は約一〇〇万円であり、これが担保として前記被担保債権を一五〇万円とする抵当権が設定され次いで譲渡担保がなされたものと認められる。然るにその後右債権は被告会社の簿外資産とされ、ついで昭和三四年六月三〇日附で相手科目を雑収入としてこれを被告会社の公表帳簿に記載したうえ翌三五年六月期において貸倒れとして処理しているのであつて、従つて本件山手広蔵の建物に設定されている抵当権譲渡担保は当然被告会社の債権を担保するものと認められるのであつて、前記の如く登記簿の債権者が被告人個人の名義となつていることは右の認定を覆えすに足りない。蓋し、第五回公判調書中証人近藤勉の供述記載によつて明らかなとおり、被告会社においては、会社名義をもつて登記すべき場合に被告人個人名義をもつて登記する場合が屡々あり、本件もまたその例であると考えられるからである。また、前記証人近藤勉の供述記載、被告人の当公判廷における供述によれば、有限会社山手商会は事業不振のため同商会より利息と称して送られる手形はすべて未決済の状況にあつたことは窺えるけれども、右債務者が破産、和議その他回収不能と認定すべき客観的要件は全く存しないし、また前記建物には多数の賃借人の居住する事実は認められるけれども被告会社においては右建物につきなんらの換価手続をも執らず、無為に終始していたのであるから未だ最終的に幾何の債権が回収できるかは確定できない状態にあつたものというべきである、然らば被告会社においてこの時点において山手商会に対する債権を全部貸倒れとして処理したことは明らかに違法であり、被告人の検察官に対する昭和三八年八月一六日附供述調書中被告人の供述として「弁護士を介して貸金を返えすか建物を明渡してくれないかと交渉中であり、この交渉がすまないと貸付金などがいくら取れるかわからないところです」という記載によつても被告人に逋脱の犯意を認めるに十分であるから所論は採用できない。

五、別紙第三の番号33債権償却引当損否認滝川理容器具店分、丸照器具店分、吉田商店分合計二七四万六、一三一円につき、右金額がいずれも損金として認容される税法上の要件をみたしていないことは認めるけれども、被告会社では税法上要求される損金の要件を知らず、内山経理事務所の指導に従つて事実上回収不能の売掛金は償却しうると考えたのであり、申告書に証明書を添附しなければならないことも知らなかつた。したがつてこの部分については事実の錯誤により逋脱の犯意を欠くものである。丸照器具店、吉田商店に対する売掛金は売上帳の不備により償却した売掛金と償却後の売掛金を合計して計上しているが、現実の入金を全体として観察すると償却後の売掛金に相当する金額の入金しかなく償却した売掛金は回収されていないと主張するのであるが、滝川透の検察官に対する供述調書ならびに売上帳二冊(同押号の二六および二七)によると滝川理容器具店は被告人の実兄滝川透の経営する個人商店であり、多年被告会社と取引があり昭和三六年六月期末には売掛金三九二万八、八四九円に達していることは認められるけれども、依然取引は継続されており、且つ毎月一二万乃至二〇万程度の代金が支払れており、また債務者の一般財産として透所有の土地、建物の存することが認められ、第三、四回公判調書中証人手島干の供述記載ならびに売上帳二冊(同押号の二二および二三)によると丸照器具店、有限会社吉田商店とも被告会社の古い得意先であるが、昭和三五年六月期末において前者に対する売掛金は一一四万円余、後者に対するそれは五〇万円余に達している事実は認められるけれども、両店とも依然として取引が継続されており、且つ両店とも毎月必らず現金をもつて若干の内払いをなしていた事実が認められるのであつて、債権の貸倒れの特例による債権償却引当損の計上が認容されるような客観的事実はいずれも存しないのであつてしかも被告人らはこれらの取引関係を熟知しながら敢えてこれを損金に計上したものであつて、仮りに弁護人主張の如く被告人らはこれを許されるものと信じていたとしても、かくの如きは債権償却引当金計上に関する税法上の規定の不知もしくは誤解に過ぎずしかもかかる税法上の基準については、通常会社経理に携わる者として容易にこれを知り得べき事柄に属するものであるからもとより犯意の成立を阻げるものではない。それゆえ所論は採用できない。

六、別紙第四の番号29雑損失否認滝川理容器具店分三九二万八、八四九円、同寄附金認容前同額、寄附金損金不算入額三二一万九、一二六円につき、浜松市の滝川理容器具店は被告人の実兄の経営する商店であるが売掛金未収額は約四〇〇万円に達し、これを無理に取り立てれば実兄を破産させねばならない状態になつたが、同商店からはすでに十分の利潤を得ている計算になつていたのでこの際これを放棄してやり爾後の売掛金を確実に支払わせた方が被告会社に有利であると判断し前年度において同店に対する売掛債権三九二万八、八四九円を償却したところ債権放棄をしたうえでなければ損金とは認められないとして否認されたので、税務署の指示どおりに債権放棄の内容証明を発したうえ、改めて当期において前同額を損金に計上したものであり、かかる処理は内山経理事務所および浅草税務署の指示に従つて、なされたものであつて被告会社としては土地建物を有する債務者に対する債権放棄は損金とは認められず、寄附金と認められ、またその損金算入額については税法上一定の限度のあることも知らなかつたのである。したがつて被告人らは本件科目について非損金性の認識がなかつたのみならず、被告会社としては債権放棄により売掛金債権を喪失し右債権は無価値に帰したのであるから本件金額は当然損金計上が是認さるべきものであり、またここで放棄した債権は前年度において否認された債権と同一のものであるから、両年度に亘り重複して課税の対象となるべき性質のものではなく、二重に脱税犯の成立する筈はないと主張するのであるが、前掲各証拠によればなるほど、被告会社が滝川理容器具店に対する売掛金三九二万八、八四九円につき、昭和三六年六月期において債権放棄の通知を出していることは明らかであるけれどもすでに前段において説明したとおり同商店に対する売掛金については回収不能と認められるべき客観的事実は全然存在せず、被告会社において同商店に対する債権を取り立てなかつたのは同商店の経営者滝川透が被告人の実兄にあたるので親族間の情誼によるものであり、しかも被告人はこの間の事情を知りながら右売掛金債権を放棄してその金額を雑損に計上したものであつて、かくの如きは法人税法上の寄附金であること明白であり、所論はひつ竟法人税法にいう寄附金の意味、寄附金の損金算入限度額の不知に過ぎず、固より犯意の成立になんら消長を及ぼすものではないから所論は採用できない(なお、その処理の点については別紙第四の番号29の説明欄記載のとおりである)。

七、別紙第三の番号34受取利息計上洩六九万六六三円及び同第四の番号33受取利息計上洩一九五万九、一三三円につき、右はいずれも前期に計上されている受取利息中の前受部分で当期においては期間が経過していることは認めるけれども、これは被告会社は、利息の計上は発生主義によらなければならないということを知らず、前期に前受けして計上した利息が当期の課税対象となり、当期において納税義務が発生するということを知らず、簡易な現金主義によつて記帳した結果生じた過誤であつて、非刑罰法規の不知によつて納税義務の認識を欠いていたものであるから逋脱の犯意はなく、したがつて本件科目は逋脱額に加算せらるべきではない。また、別紙第三の番号1売上計上洩三七一万七、三八五円および同第四の番号1売上計上洩中の〈2〉一六八万一、七七二円につき、被告会社が、これらの勘定を当期の収入として計上しなかつたことは争わないが、これらは詐偽その他不正の行為によりその所得を隠蔽したものではなく、被告会社においては前記の如く現金主義会計を採つていたので、当期の収入とせず翌期に繰り延べて経理したのに過ぎないのであつて、この部分についても納税義務あることの認識を欠いていたのであるから逋脱罪は成立しないと主張するのである。そこで考えてみるのに第三回公判調書中証人手島干の供述記載、検察官に対する鈴木利和の昭和三八年八月一三日附供述調書、押収に係る被告会社の総勘定元帳(前同押号の七)によれば、被告会社においては本件各勘定科目についていわゆる現金主義をとつたことが明らかであるけれども商品等の売買による損益帰属の時期は売買契約の効力発生の日の属する事業年度の損金または益金に算入するのを原則とし、場合によつては商品等の引渡の時を含む事業年度の損金又は益金に算入することができるとするのが税法上の原則であり、現金主義の如きは、信用取引が大部分を占めている現代の経済社会に適用することができないことは自ら明らかであり、且つ法人税法が営業年度をかぎり期間損益計算をすることを前提として組み立てられていることに鑑みても、そのとるべからざることはいうまでもないところである。所論の如き事情は税法の不知乃至は誤解に過ぎずしかも、右のような税法上の原則については通常会社経理に携わる者として容易に知り得べき事柄に属するものであるから(なお前期決算に際し、内山経理事務所より、この点に関して指導を受けた事実もある)固より犯意の成立を阻却するものではない。また、かくの如く当期の収入として計上すべきものを翌期に繰り延べて確定申告をなすこと自体が詐偽その他不正の行為なのであるから所論は採用できない。

第二、検察官は

一、被告会社は日扇油脂有限会社から昭和三五年六月期において合計四万八、二二六円、同三六年六月期において合計八万七、八八三円の仕入値引きを受けながら、この分も小切手で支払つたようにして仕入値引を受けていないように仮装し、この分を雑収入として計上せず、これを秘かに被告人に対する賞与として支給していたものであると主張するのであるが、第七回公判調書中証人薬師寺正、第三回公判調書中証人手島干、第六回公判調書中証人滝川清子の各供述記載を綜合すると日扇油脂株式会社は被告会社の仕入先であつたが、昭和三二年五月頃業績不振のため倒産したので債権者等協議のうえ、債権は一応棚上げし、大口債権者が出資して新たに日扇油脂有限会社を設立し、これに営業面はそのまま引き継がせ新会社の業績が上れば、その収益をもつて債権の回収を計ることになつたが、被告人滝川は個人として旧会社に対し四〇〇万円を越える大口の債権があり、また新会社設立に際しては被告会社も資金の一部を出資しており且つ被告人は新会社の発足に大いに力を尽くしその主宰する被告会社は引き続き新会社からその製品を仕入れるなどの特別の事情があつたので新会社の代表者と被告人との間に、秘かに、新会社は被告会社から販売代金を受領する都度、その代金の五%相当額を被告人滝川に対する債務に内入弁済する旨の約束が成立し、爾来日扇油脂有限会社はその約束に従い販売代金受領の都度その五%に相当する金額を被告人滝川に対する債務の弁済に充ててきたのであるが、その方法として当初は被告会社はその代金の九五%に相当する約束手形を発行し、薬師寺正に手交していたが、その後被告会社においては右の約束手形のほかに代金の五%に相当する小切手を同時に発行し、右薬師寺は一旦被告会社の会計係からこれを受け取り、その直後に右小切手を滝川清子に返戻していたが日扇油脂有限会社においては他の債権者に対する配慮から右弁済の事実を秘匿するため、帳簿上売上値引として処理しており、一方被告会社においても当初は経理係員が右の事情をよく知らなかつたため仕入値引として処理していたことが窺えるのである。してみると被告会社における日扇油脂有限会社からの仕入値引の実体は、当初から同会社の被告人に対する債務の内入弁済とみるのが相当であり、すなわち被告会社は日扇油脂有限会社からの仕入れにつき五%の値引きを受けていたものとは認め難く、小切手額面相当額は真実日扇油脂有限会社に支払われていたものと認められるから本件金額は逋脱所得に算入しないこととする。

二、別紙第三の番号35雑収入計上洩六五万九、五〇〇円につき、右は大阪エアゾール株式会社からのリベートとして被告会社に小切手で送金されたものであるのに拘わらず、被告会社はこれを昭和三五年五月一二日仮受金として処理し雑収入に計上しなかつたのであるから逋脱所得に算入すべきであると主張し、弁護人は右はリベートではなくて返品代金であると主張するのであるが、昭和三七年九月一一日附大阪エアゾール工業株式会社作成の回答書によれば、右金額の小切手はリベートとして被告会社宛送られたものであること明白であり、税務計算上は当然雑収入として計上すべきものでありこの点に関する検察官の主張は正当であり弁護人の主張は採用できない、しかし被告会社における右小切手の処理状況を検討してみるに、押収に係る被告会社の振替伝票綴(前同押号の一〇)第三回公判調書中寺島干の供述記載によれば右金額は昭和三五年五月頃被告会社の取引先大阪エアゾール株式会社から被告会社宛に簡単な手紙とともに小切手で郵送されたものであるが、被告人は格別の指示を与えることなくこれを経理担当の手島干に手渡したので、同人は右小切手が如何なる性質のものであるか理解できなかつたのであるが、たまたま被告人が出張間際であつたため被告人にその説明を求めかねとりあえずその日の帳尻を合わせるため帳簿上仮受金として処理し右小切手は銀行に振り込んでおき、被告人の帰京をまつて適確な処理をしようと考えていたところその後これを失念し、仮受金のままとなつていた事実が認められる。然らば被告会社が本件金員を雑収入として計上しなかつたことについて逋脱の犯意は認め難いから本件金額は逋脱所得に算入しないこととする。

三、昭和三五年六月期に被告会社が西本政治に対する貸付金二〇五万九五八円を貸倒損失として処理したことにつき、同人は大阪市阿倍野区阪南町に居住し、被告会社の取引先であつたものであるが、被告会社は本件貸付金の担保としてその所有していた機械類を譲渡担保にとつているので貸倒れとは認められないから逋脱所得に算入すべきであると主張し弁護人は、右西本は被告会社に対する前記債務のほか被告人個人に対しても一〇〇万円の債務があり検察官の主張する債務者所有の機械類に設定された譲渡担保は被告人個人の債権の担保であり、しかも右機械類には全く担保価値なくまた債務者には他に見るべき資産もないから被告人個人の債権さえ回収不能の状態にあり、況んや全然担保のない被告会社の債権の如きは当然貸倒れと認められるべきであると主張するのであるが、まず、西本に対する被告人滝川の債権の存否について検討するに被告人は当公判廷において約一九〇万円の債権を有する旨供述しており、また検察官に対する被告人の昭和三八年八月一六日附供述調書添附の公正証書謄本二通、前掲法人税決定決議書(前同押号の三五)によれば西本政治は昭和三三年一一月従来から被告人滝川に対し負担していた二〇六万円の債務を確認すると共に新たに被告人個人から一〇〇万円を借り受けこれを担保するため前記機械類を譲渡担保に供した事実が窺える。そして被告会社の貸付金帳(前同押号の三一、三四)には昭和三三年六月期すでに西本に対する貸付金として二〇五万九五八円が計上されておるところ、これは金額において前記二〇六万円の債権と一致しておるからその詳細の経緯は明らかではないが、前記二〇六万円の債権が被告会社の資産に計上されるに至つたものと推認されるので、右債権を被告会社の資産として考察するに右の債権については何等の担保がなく前記被告人の検察官に対する供述調書添附の南利三法律事務所作成の回答書および和解調書によれば、検察官の主張に係る機械類は被告人個人の西本に対する一〇〇万円の債権に対する担保であることが認められる。そして右機械類には担保価値はなく西本は当時すでに居所不明の状態にあり、被告会社の同人に対する債権は事実上回収することは全く不可能であると認められるから、被告会社において昭和三五年六月期の決算当時これを回収不能の状況にあつたものとして貸倒れとして処理したことは相当であるから、逋脱所得に算入しないこととする。

四、別紙第三の番号38控除所得税額四六万九、七六一円、同第四の番号21の(2)諸税公課否認三八万五、九〇二円について、各番号説明欄記載の理由により逋脱所得に計上すべきであると主張するけれども、前掲各証拠によればこれらはいずれも被告会社より法人税確定申告書の作成を依頼された内山経理事務所の処理上の過誤に基くものであることが認められこれらについてはいずれも逋脱の犯意は認められないから、逋脱所得に算入しないこととする。

(法令の適用)

法律に照らすと、被告会社の判示第一の各法人税法違反の所為は、いずれも昭和四〇年法律第三七号付則第十九条により同三二年法律第二八号によつて改正された法人税法第四八条第一項および同二五年法律第七二号によつて改正された同法第五一条第一項に該当し、以上は刑法第四五条前段の併合罪であるが、同三七年法律第四五号により削除される以前の法人税法第五二条本文により各所定罰金額の範囲内で被告会社に対し判示第一の(一)の罪につき罰金三五〇万円および同(二)の罪につき罰金三〇〇万円にそれぞれ処し、

被告人滝川の判示所為中、同第一の各法人税法違反の点は、いずれも前同様法人税法第四八条第一項に、同第二の各所得税法違反の点は、いずれも同四〇年法律第三三号付則第三五条により同二九年法律第五二号によつて改正された所得税法第六九条第一項に各該当するところ、判示第一の各法人税法違反の罪については、いずれも所定刑中懲役刑を選択し、判示第二の各所得税法違反の罪については、前記所得税法第六九条第一項により各所定の懲役刑および罰金刑を併科することとし、以上は刑法第四五条前段の併合罪であるから懲役刑については同法第四七条本文、第一〇条により犯情重いと認められる判示第一の(一)の罪の刑に法定の加重をした刑期範囲内で、罰金刑については前記所得税法第七三条本文により判示第二の(一)の各罪につきそれぞれの所定罰金額の範囲内で、被告人に対し懲役八月および判示第二の罪につき罰金八〇万円、同(二)の罪につき罰金一〇〇万円にそれぞれ処し、なお、被告人滝川において同被告人に対する右各罰金額を完納することができないときは刑法第一八条により金五、〇〇〇円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置し、諸般の情状を考慮し同法第二五条を適用して被告人に対し、本裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予することとし、なお訴訟費用については刑事訴訟法第一八一条第一項本文、第一八二条を適用して被告会社および被告人の連帯負担とする。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 鈴木重光 裁判官 福島重雄 裁判官 武藤冬士己)

別紙第一

修正損益計算書

34.7.1~35.6.30

〈省略〉

別紙第二

修正損益計算書

35.7.1~36.6.30

〈省略〉

別紙第三 逋脱所得の内容

自 34.7.1

至 35.6.30

〈省略〉

別紙第四 逋脱所得の内容

自 35.7.1

至 36.6.30

〈省略〉

別紙第五 修正損益計算書

35.1.1~35.12.31

〈省略〉

修正損益計算書

36.1.1~36.12.31

〈省略〉

別紙第六

昭和35年分逋脱所得の内容

〈省略〉

別紙第七

昭和36年分逋脱所得の内容

〈省略〉

別紙第八

昭和35年分税額計算書

〈省略〉

昭和36年分税額計算書

〈省略〉

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